ライフサイエンス製造業界は、かつてないほどの速さで変革を遂げています。グローバルな生産回帰(リショアリング)、規制要件の変化、人材不足、そして高まるサステナビリティへの要求といった要因が業務のあり方を再構築しており、企業には高い適応力が求められています。今日のリーダには、長期的なレジリエンス(回復力)と高いパフォーマンスを確保するために、最先端のcGMP (医薬品の製造管理および品質管理の基準)対応施設を、より迅速かつスマートに、そしてサステナブルな形で実現することが求められています。その一例として、ジョンソン・エンド・ジョンソンが2025年3月に発表した事例が挙げられます。同社は、製造能力増強のための4つの新工場建設を含む、今後4年間で550億ドル超に上る米国への投資計画を明らかにしました。1
この好機を活かせるのは、着工前に、大胆な戦略的計画と、信頼性の高い技術、深い専門知識、そしてAIを活用したインテリジェンスを組み合わせることができる企業でしょう。本ブログでは、ロックウェル・オートメーションが提唱するNew Capacity (新たな生産能力)という視点をご紹介します。これは、ライフサイエンス企業が将来を見据えたcGMP対応施設を構築し、不確実な環境下でも成長し続けることを支援するための、5つの戦略的優先事項に基づいています。
製薬企業は、特許による独占期間の利益を最大化すべく、新たな生産設備の稼働を早め、迅速に医薬品の製造を開始しようとしています。そのため、人的リソースへの依存を最小限に抑えつつ、当初からアジャイルかつ柔軟な対応が可能な「未来の施設」を構築することには、極めて大きな動機があります。同時に、規制当局も自動化やデジタル化の推進を促しており、品質や効率の向上に向けたAI活用の検討も推奨しています。施設の遠隔規制評価(RRA: Remote Regulatory Assessment)やコンピュータソフトウェア保証(CSA: Computer Software Assurance)に関する最近のFDAガイダンス、さらには新薬承認申請の審査プロセス効率化に向けたAI活用の計画などは、伝統的かつ保守的な傾向のある製薬業界に対し、デジタル化の成熟度を高めるよう促す当局の姿勢を如実に示しています。
将来を見据え、長期的に対応可能な施設を設計・建設する好機
バイオ医薬品製造における国内回帰(リショアリング)の動きや世界的な投資が拡大し、施設の迅速な建設に対する需要が高まっています。しかし、そこには大きな課題も存在します。
- ライフサイエンス分野の設備投資プロジェクトの95%が、コストやスケジュールの目標を達成できていない。2
- cGMP (医薬品の製造管理及び品質管理の基準)に適合する施設をゼロから建設し、稼働させるには、通常3~5年の期間と数億ドル以上の費用を要する。
- 人材不足が事業規模の拡大や稼働準備に支障をきたす恐れがあり、2030年までに790万人の労働力が必要とされている。3
- サステナビリティへの期待や環境規制が強化されている。世界の製薬企業トップ20社のうち95%が、厳格化する気候変動関連の規制に対応するため、温室効果ガス排出量の削減目標を策定している。4
2026年を迎えるにあたり、各組織のリーダは、迅速なサービス提供、デジタルトランスフォーメーション、人材育成、サステナビリティ(持続可能性)、そして規制への迅速な対応を重視しています。これらのテーマは、ロックウェル・オートメーションが提唱する、将来を見据えた施設構築のためのNew Capacity構想の柱となる要素と密接に関連しています。
将来を見据えたcGMP施設のための5つの戦略的優先事項
以下の優先事項は、製造メーカが競争力を維持し、リスクを低減し、時間の経過とともに効率的に新施設を拡張していく上で役立ちます。
1. パートナとの早期かつ戦略的な連携による市場投入の迅速化
予定通り、あるいは予定より早く施設を開設することは、競争力の向上、利害関係者からの信頼強化、そして早期の収益化といった価値をもたらします。これを実現するには、概念設計の段階から、自動化および技術分野の有能なパートナと早期に連携し、制御戦略、データアーキテクチャ、および長期的な運用上の柔軟性について認識をすり合わせておく必要があります。「早期の連携」とは、詳細設計が始まる前理想的には構想設計の段階でパートナを関与させることを意味します。これにより、機器戦略、自動化プラットフォーム、データモデルといった上流工程での決定事項が、下流工程における拡張性やコンプライアンス(規制適合)を確実に支えるものであるかを確認できます。
ロックウェル・オートメーションは、以下のような機能を活用して、スケジュールの短縮を実現します。
- システムシミュレーションやバーチャルコミッショニングを支援するデジタルツイン技術
- 制御システム向けの標準化されたエンジニアリングフレームワークおよび統合設計環境
- 研究開発(R&D)と製造部門間の技術移転を効率化するコネクテッドツール
こうした「早期関与」のアプローチを採用している企業は、すでに大きな成果を上げています。例えば、厳しいスケジュールに直面していた北米のバイオテクノロジー企業は、ControlLogix®コントローラとPlantPAx®システムを活用したスキッドベースの標準化戦略を推進するため、早い段階から自動化およびプロセス設計のチームと連携しました。アーキテクチャ、スキッド戦略、妥当性確認への対応準備といった各要素において、当初から整合性が図られていたため、チームは立上げ(コミッショニング)に要する時間を50%短縮することに成功しました。
同様に、Cytiva社も、標準化されたデジタルライブラリ、統合型分析機能、自動テスト環境を導入することで、体制を強化しました。これらのツールによって業務全体で一貫性が確保された結果、同社はスループットを10~20%向上させるとともに、バッチの出荷承認にかかる時間、ダウンタイムの原因調査、エネルギー消費量、および材料廃棄の大幅な削減を実現しました。こうした改善は、新製品を市場に投入する際の準備期間の短縮にもつながりました。
2. 柔軟かつ統合されたインフラで運用効率を向上
多額の設備投資を回収するには、運用効率の向上が不可欠です。しかし、個別に稼働するシステムが混在する複雑な施設では、非効率性が急速に拡大してしまいます。ロックウェル・オートメーションのIntegrated Architecture® (統合アーキテクチャ)は、施設の拡張や進化に合わせて柔軟に対応できる、統一された自動化の基盤構築を支援します。アーキテクチャや自動化によるメリットに加え、AIを活用したインサイトを取り入れることで、プロセスのばらつきの把握や新たなボトルネックの特定を行ない、リアルタイムで継続的な改善活動を推進する動きも広がっています。
統合アーキテクチャの利点は以下の通りです。
- AIを活用した予測分析により、プラントおよび保守業務の改善を支援
- 文脈が明確で有用な稼働データへの迅速なアクセス
- プラグ&プロデュース機能により、最小限の統合作業でマルチベンダーのOEM機器をシームレスに組み込み、迅速に稼働開始が可能
- 妥当性確認やライフサイクル管理を簡素化するソリューションと設計手法による、総所有コスト(TCO)の低減
これらは単なる概念上の改善ではなく、製造メーカが現在実際に実現していることです。こうしたテーマは、ISPE Facilities of the Future Conference (ISPEが主催する、次世代の製薬工場(ファシリティ)とエンジニアリングの革新に焦点を当てた国際会議)での議論とも深く合致するものでした。同会議では、新規施設・既存施設を問わず、自動化アーキテクチャの最新化やデータサイロの解消を図ることの重要性が、業界のリーダたちによって強調されました。
GSKでは、老朽化したEMS (エネルギー管理システム)やBMS (ビル管理システム)の最新化に加え、個別に運用されていた制御・自動化システムをPlantPAx (統合アーキテクチャの原則を適用したシステム)へと統合しました。その結果、生産リスクを最小限に抑えつつ、信頼性、可視性、およびコンプライアンスの向上を実現しました。
3. デジタル化技術で従業員の能力を最大限に引き出す
ライフサイエンス製造業では、人材不足が依然として大きな課題となっており、デジタル技術を活用した従業員の能力強化は戦略的に不可欠です。テクノロジは、準備態勢、安全、生産性を劇的に向上させることができます。製造メーカ各社は、機械学習を活用したオペレータのガイダンスシステムを導入し始めています。このシステムは、状況に応じた指示を提供し、標準作業手順(SOP)の遵守を徹底させ、トラブルシューティングのばらつきを低減します。これにより、チームの規模拡大に伴う従業員の能力の一貫性も確保されます。
ロックウェル・オートメーションは、以下の方法で従業員の能力強化を支援します。
- 没入型トレーニングおよびリモート・コラボレーション・ツール
- 作業手順の標準化とミス削減を実現するデジタル作業指示
- ワークステーションやリアルタイムデータへのモバイルアクセス
- 業務の可視性を高める可視化ツール
生産性と即応性にもたらされた効果は、その成果が如実に物語っています。製薬会社の東亜STは、ロックウェル・オートメーションの製造実行システム(MES)、倉庫管理システム(WMS)、SCADA (監視制御およびデータ収集)システム、およびPTCソリューションを導入しました。この導入により、品質の検証やデータの整理・分析、製造環境の把握が可能となり、意思決定者はより迅速なビジネス判断を下せるようになったほか、規制報告やコンプライアンス業務における人的ミスの削減も実現しました。
ISPEのイベントにおいてワークフォーストランスフォーメーション(人材・業務の変革)が大きく取り上げられたことは、デジタル化の推進がもはや単なる選択肢ではなく、他社との差別化を図るための重要な要素であることを改めて裏付けるものとなりました。
4. 当初からサステナビリティの目標を考慮する
サステナビリティへの期待が急速に高まる中、新規建設(グリーンフィールド)の施設は、高額な改修工事を行なうことなく、エネルギー効率の高いシステムの導入、リソースの最適化、そして環境負荷の低減を実現する絶好の機会となります。
ロックウェル・オートメーションは、以下の取り組みを通じてサステナビリティを支援します。
- プロセス制御とパワー制御の機能を統合することによる、電力とユーティリティ消費の削減
- AI予測モデルを活用した排出量に関する知見に基づく、エネルギーとユーティリティの最適化
- WAGES (水、空気、ガス、電気、蒸気)の消費量を追跡するツール
サステナビリティを後付けではなくシステム設計の段階から組み込むことで、その性能上のメリットは即座に明らかになります。ある高速遠心分離機のプロジェクトが、これを如実に実証しました。回生駆動ソリューションの導入と周辺工程の安定化を図った結果、ある製薬施設では、他の機器の稼働を継続しつつ製造全体の安定性を向上させながら、ピーク時のエネルギー消費を22%削減することに成功したのです。5
5. アジャイルかつ接続されたシステムで規制要件への適合を維持
デジタル技術、製造プロセス、グローバルなサプライチェーンの進化に伴い、規制当局の期待や要件も変化し続けています。そのため、新たな施設の運用体制を構築する際には、当初からコンプライアンス(規制適合)を組み込んでおく必要があります。多変量解析による逸脱検知や自動バッチ比較といったAI活用の品質監視ツールは、傾向の早期把握や文書の正確性向上を通じて、QA/QC (品質保証・品質管理)チームの業務を支援し始めています。
ロックウェル・オートメーションは、以下の方法により、規制に適合したアジャイルな運用を実現します。
- 電子バッチ記録およびデジタルワークフロー
- トレーサビリティと監査への即応性を支える統合されたデジタルスレッド
- 運用リスクを低減し、リスクベースの戦略を支援するバーチャル設計・試験
コンプライアンスに対するこの統合的なアプローチは、グローバルな事業全体にわたり、測定可能な成果をもたらします。あるバイオ医薬品企業は、FactoryTalk® PharmaSuite®ソリューションを導入することで、プロセスの標準化、リアルタイムでの品質検証、そして報告業務の改善を実現しました。その結果、バッチサイクルタイムが10週間から8週間に短縮され、年間で2バッチの追加生産が可能となりました。6
ライフサイエンス業界の現実を熟知したパートナ
新しいライフサイエンス施設のパートナ選びは、単に自動化技術を選定することではありません。現代のcGMP (主に医薬品や食品の製造において、米国食品医薬品局(FDA)などが定める現行の適正製造基準)運用が抱える、極めて高い重要性、厳格な規制、そして複雑に絡み合う相互依存性といった特性を深く理解している組織と連携することが不可欠です。ロックウェル・オートメーションは、業界に関する知見、統合された技術、そして長期的なパートナシップを独自の形で融合させているという点で、他社とは一線を画しています。
ライフサイエンスの複雑さを理解しているパートナ
ロックウェル・オートメーションのチームは、日々、医薬品やバイオ医薬品の製造における複雑な現場に携わっています。そのため、設計の初期段階における決定が、長期的な品質、トレーニング、信頼性、そして規制対応の成否にどのような影響を及ぼすかを熟知しています。こうした現場の運用や規制に関する深い理解は、企業が多大なコストを伴う不整合を回避し、稼働初日から高いパフォーマンスを発揮する施設を構築する上で大きな力となります。
シームレスな連携を実現するエンド・ツー・エンドの技術
ロックウェル・オートメーションのポートフォリオ(PlantPAx®システム、PharmaSuite®製造実行システム(MES)、ThinManager®ソリューション、FactoryTalk® Design Hub™ソフトウェア、Emulate3D®ソフトウェアなど)は、統合アーキテクチャを活用し、相互に連携して機能するように設計されています。これにより、システム統合に伴う課題の軽減、データ整合性の強化、妥当性確認の迅速化が図られ、エンジニアリング、運用、品質管理の各部門にわたって一貫したワークフローが維持されます。さらに、意思決定の高度化、システム間でのコンテキスト(文脈)の関連付けの改善、そしてプロセス挙動のより詳細な可視化を実現するために、これらのシステムとAIを活用した分析機能を組み合わせるケースが増えています。
意思決定の強化、システム間でのコンテキスト(文脈)の統合、そしてプロセス挙動のより詳細な可視化を実現するために、これらのシステムとAIを活用した分析機能を組み合わせるケースが増えています。
リスクを低減し、導入を加速させるエコシステム
ロックウェル・オートメーションが構築するOEM、システムインテグレータ、テクノロジパートナからなるグローバルネットワークは、共通のアーキテクチャ、検証済みコードライブラリ、および実証済みのパターンを基盤として連携しています。こうした連携により、立上げ時の遅延や手戻りを最小限に抑え、予測可能な形での複数拠点への展開(スケールアウト)が可能になります。
デジタルバックボーンに組み込まれたアジリティ
ロックウェル・オートメーションは、デジタルツイン、統合データスレッド、最新のMES機能、そして拡張性のある自動化プラットフォームを提供することで、新たな業務形態や規制の変更、市場ニーズの変化に適応するための手段を組織に提供します。
一部の組織では、リスクアセスメントや運用への備えを強化するために、これらの機能と、機械学習(ML)に基づくシナリオ評価を組み込んだ予測シミュレーションモデルを組み合わせる動きも始まっています。
地域に根差した専門知識に裏打ちされたグローバルな展開力
ロックウェル・オートメーションは、世界各地に配置した専門チームを通じて、迅速なサポート、規制への適合、最新化に向けたガイダンスを提供します。これにより、分散型ネットワーク全体で施設の稼働時間と一貫性を維持できるよう支援します。
長期的なパートナシップへのコミットメント
立上げ(コミッショニング)はゴールではなく、始まりに過ぎません。ロックウェル・オートメーションは、施設のライフサイクル全体にわたり、最新化、サイバーセキュリティ、人材育成、最適化、そして拡張を支援します。
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