「CAT」のロゴが刻まれたキャタピラー社の建設機械は、ビル建設から険しい遠隔地の鉱山発掘まで、あらゆる現場においてその過酷な作業の象徴的存在です。
キャタピラー社製品にユーザが期待する耐久性を実現するのは同社の先進コンポーネント製造部の責任です。同部は、キャタピラー社の機械およびアフターマーケット事業向けのトランスミッション、油圧コンポーネント、およびその他の部品を製造していますが、最近では、新しい部品ではなく余り目に見えないものの構築を模索し始めました。それは、データに基づく生産改善活動です。
データを掘り起こし重要な生産工程を改善
コンポーネント部門の人たちは次第に、生産データにアクセスすることで新しい可能性が開かれるのではと考えるようになりました。
実はその製造プロセスは「ブラックボックス」同然で、作り上げられたコンポーネントが実際にスペック通りに仕上がっているのかどうかすら判らない状態だったのです。この状況のために生産は非効率でとても最適化されたものとは言えず、時には作業のやり直しや無駄なコストの発生を引き起こしていたのです。
「私たちのゴールは二重構造になっていました」と、キャタピラー社のグローバルACM ERPCoEリーダであるブレント・ルース氏は述べています。「まずは、当時の工場インフラ下でIIoTデバイスを接続して利用する方法を学び、すぐに成果を上げること。次に、実際の製造プロセスについての理解を深め、リアルタイムで何が起きているのかを把握し、我々の製造プロセスを改善し最適化することです。」
険しい道のりの始まり
最初のトライアル実証は、クリスマスの4週間前に猛烈な勢いで行なわれました。目標は、ボトルネックになっている機器からPLCデータを取り出し、グラフィカルな形にして製造エンジニアに提示しました。これらはすべて、FactoryTalk InnovationSuite, powered by PTCを使用して行なわれました。
このプロジェクトのためにブレント・ルース氏は、技術とプロセスに関する深い専門知識を持つ人材からなるチームを結成し、一方でロックウェル・オートメーションとPTCにもサポートを仰ぎました。チームは、歴史的にコミュニケーションがあまりなかったITとOTから構成されましたが、彼らはプロジェクトのビジョンを理解し、プロジェクトの成功を信じ、共に任務を遂行しました。
「私たちは共通体験を通じてITとOTの間のコラボレーションを体現しました」とブレント・ルース氏は語ります。「戦略とビジョンの改善からプロジェクトの実行、そしてその間のすべてのステップに至るまで、実際に袖をまくり上げて1つのチームとして協力して取り組みました。これにより、強力な協力関係を築くことができたのです。」
いくつものユースケースを考えそして優先順位を付けるために、チームは工場で数週間を費やし、デジタルトランスフォーメーションに向けて準備が整っているかどうかを確認しました。彼らはERPを丹念に調べ上げ、マスターデータを深く掘り下げ、バックオフィスと製造現場の両方でビジネスがどのように行なわれているかを調べました。こうした作業のお陰で、チームはビジネスニーズと目標に沿ったデジタルイニシアチブを企画し優先順位を付けることができました。
グローバル・サプライ・チェーン・マネージャのハイデン・パウエル氏は、次のように述べています。「この初期段階において、我々は現場とファイナンスのチームを巻き込み、この活動がどの程度のメリットをもたらすのか、そしてそれは業界標準と比較してどの程度の物なのかを時間をかけて検証し、その検証結果に対してコンセンサスをとりながら進めていきました。」
転機の瞬間
製造プロセスの理解を深め、生産が実際にスペックを満たしていることが確認できた瞬間、それはコンポーネント部門にとって大きな「転機の瞬間」でした。
これまでには為し得なかった豊富なデータへのアクセスにより、プロセスの無駄な時間をすべて洗い出すことが可能になりました。また、製造エンジニアはプロセスを迅速に改善および最適化することができました。実際、改善活動開始の初日に全体のプロセス時間を5%以上も短縮できたのです。
さらに、プロセスの改善により工場への投資やシフトを追加する必要がないことが判明し、数十万ドルのコストも節約されました。結局、今あるリソースで事は足りていたのであって、それを証明するためのデータが無かっただけなのです。
この初期の成功はほんの始まりに過ぎませんでした。プロジェクトの範囲は、ボトルネックであった機器だけではなく全機器へ、そして国内外の他工場にも拡張されて行きました。
「この一連の作業は、私たちの将来の方向性を定義するのに非常に役立ちました」と、ハイデン・パウエルは言いました。「私たちが達成した最初のスプリントは数週間で完了しました。そして、これからはその継続がカギになります。なぜなら、それこそが長い道のりの一部だからです。」