クラウドを活用した製造についてのエイドリアン・ギエッコとの一問一答
ロックウェル・オートメーションのアジア太平洋地域のソフトウェアおよびコントロールディレクタであるエイドリアン・ギエッコが、製造分野のクラウド技術についてよくある質問にお答えします。
1. 産業用オートメーション分野およびそのクラウドとの関連におけるデジタルトランスフォーメーションをどう定義しますか?
産業用オートメーションにおいてデジタルトランスフォーメーションを実現するために重要な要素は、クラウド、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)などの技術です。デジタルトランスフォーメーションとは、製造メーカがこのようなデジタル技術を統合し、工場およびサプライチェーン全体で生産ワークフローと機械のオートメーションを拡大し、進化させるプロセスです。
より具体的にお話しするために、次の4つの観点から考えてみましょう。
- 分析ツールを活用して生産を最適化し、すぐに活用できる洞察で従業員を訓練
- 生産ワークフローをデジタル化し、機動性、品質、可視性を向上
- 安全、協働性、コスト効率がより高い仮想環境において、デジタルエンジニアリングでできることを増やす
- 人、システム、機械、サプライチェーンをつなげる
要するに、デジタルトランスフォーメーションは、生産性向上や市場投入時間の短縮に役立ち、製造業者のサステナビリティ目標達成にもますます役立つようになっています。そして、クラウドは、このデジタルトランスフォーメーションの実現を可能にする重要技術の1つです。
2. 過去5年間、製造分野でクラウドベースのアプリケーションを成長させた主要な駆動要因は何ですか?
コロナ禍の影響が残る中でのデジタルトランスフォーメーションの必要性は、製造分野におけるクラウドの重要な促進要因となってきました。まず、情報技術(IT)の観点から見ると、簡略化を進める機会が提供されます。クラウドベースのアプリケーションにより、IT機器とIT機器の管理をオフプレミス化し、既存の資産の管理でしばしば過度の負担がかかっているITチームの作業負荷を軽減し、事前の設備投資の必要性を抑えることができます。
さらに、アプリケーションをクラウドに移行することで、今日製造メーカがいよいよ追求しているスピードと機動性を実現できます。また、プロジェクト実現日程を最大90%圧縮できます。クラウドでの大規模な製造実行システム(MES)の導入は、オンプレミスでの同程度の配備より3~6カ月早く実現できます。つまり、競合他社に3~6カ月先んじることができる可能性があるわけです。3~6カ月は、今日のビジネス環境では非常に長い期間と言えます。そして、クラウドは、ソリューションの拡大や他の施設への拡張時にスマートに拡張できます。
可視性と共同作業の向上も、クラウド化を検討する製造メーカが増えているもう1つの理由です。クラウドは、すべての製造施設の上にあるITのレイヤであり、すべての生産プロセスをより容易に監督できるようになります。したがって、共同作業、遠隔地にある専門知識の利用、複数の施設にわたるベンチマーク評価が増加します。電気自動車(EV)プラットフォームのプロバイダであるREEオートモーティブ社が、世界各地の工場でオペレーションを拡大するにあたり、Plex MESをデジタルバックボーンに選んだ主な理由は、生産オペレーションの可視性を高める必要があったからでした。
3. クラウドでの生産アプリケーションについて、年月を重ねるにつれて信頼性、スピード、セキュリティの面で何が変わっていますか?
この3つの面については著しい改善が見られており、年々さらに良くなり続けると考えられます。
信頼性: クラウドソリューションのプロバイダは、信頼度を高めるために、基盤と冗長性に大きく投資しています。クラウドプラットフォームは、生産アプリケーションで一般的な大規模な作業負荷と予想できないトラフィックパターンを処理するように設計されています。大多数のSaaS (サービスとしてのソフトウェア)プロバイダは、99.5%以上の一般的なアプリケーション可用性を約束するサービス内容合意書(SLA)を提供しています。ダウンタイムを最小限に抑える必要があるミッションクリティカルなアプリケーションでは、99.5%以上という数字が重要です。当社はこの分野を重視しており、Plexなどのプラットフォームの実績を誇りにしています。なお、2018年~2022年に記録されたPlexの可用性は、99.994%以上でした。
インターネットアクセス自体の信頼性が懸念される地域もあります。この問題は、2つの有線ISPと5G接続などのように、複数の種類のアクセスを構成して自動フェイルオーバを実現することで、軽減できます。
スピード: ネットワークインフラとトラフィック管理の進歩により、待ち時間と処理時間が短縮され、ラウンドトリップが高速化されています。SDWAN (Software-Defined Wide Area Network)技術を使用したソリューションを活用すると、複数のISP間でロードバランシングを行ない、トラフィックの最適化と優先順位付けを行なえます。また、多くのクラウドソリューションには、待ち時間を最小化するアプリケーション要件向けに、ローカルバッファリングを提供して計算処理を行なうエッジコンポーネントが組み込まれています。
セキュリティ: 今ではセキュリティは必須となりました。セキュリティは、より真剣に取り組まれるようになり、多くの取締役会で議題として取り上げられています。そのため、クラウドソリューションのプロバイダは、セキュリティとコンプライアンスに大きな投資を行い、データプライバシーとセキュリティの懸念に対応しています。信頼性の高いクラウドベースまたはSaaSソリューションを使用することで、製造メーカはプロバイダの専門知識とリソースを活用し、データストレージの暗号化、多要素認証、ソフトウェアの自動更新などの機能でサイバーセキュリティを強化して、システムとシステムに格納されるデータのセキュリティ強化に役立てることができます。
SaaSプロバイダは一般的に、システムのセキュリティ確保およびISO/IEC 27001やSOC 2などのセキュリティ規準への準拠の維持に相当量のリソースを投資しています。これは、オンプレミス型ソリューションより高いセキュリティレベルの実現に役立ちます。なお、オンプレミス型ソリューションは攻撃に対する脆弱性がより大きいことがあります。
クラウドに移行すると、技術革新が継続します。これは、ソフトウェアがバージョンレス、つまり、常に最新版であり、オンプレミス型ソフトウェアの数年に一度のアップグレードに対し、はるかに多数の配備が毎年行われるためです。したがって、使用ベースの反復を通してエンドユーザに新しい戦力と機能の効率化がもたらされます。
4. 会社が完全にオンプレミス型の場合、クラウド化への枠組みと手順はどうなりますか?すべてクラウドになるのでしょうか?クラウド型とオンプレミス型のハイブリッドでしょうか?
未開発の工場か再開発する工場かによってアプローチが異なります。一般的に、既存の基盤を移行する必要がないことから、未開発の工場のほうがクラウド化プロセスが容易になります。一方、再開発する工場では、活用することや、クラウドベースの新しいインフラと統合することができるハードウェアとソフトウェアへの既存の投資が存在することもあります。
再開発する工場の場合、総所有コスト(TCO)が確認されていないという理由で、新しいまたは最近最新化したアプリケーションをクラウドに移行したくない場合もあります。新しい付加価値アプリケーションを追加するときや、既存のアプリケーションを最新化するときがチャンスです。FiixのようなクラウドベースのCMMS (設備保全管理システム)は、ものの数分で稼働状態にでき、クラウドで動作するAIに対応した戦力を解放することなどができます。
ただし、これを大規模に実施するために最適な方法は、ライフサイクルと生産システム全体にわたって既存のアプリケーションを洗い出し、Plex Smart Manufacturing Platform™のようなこれらのアプリケーションのうちの多くをまとめられるプラットフォームを評価することです。
1つですべてをまとめることはできないので、おそらく複数のプラットフォームやアプリケーションに行き着くことになるでしょう。したがって、統合が重要となります。この観点から、統合を簡略化する包括的なAPIを提供するアプリケーションとプラットフォームを探すことが重要です。
他方、一部のアプリケーションとデータはオンプレミスのまま、それ以外をクラウドに移行する必要がある場合は、ハイブリッド型のアプローチのほうが適していることもあります。例えば、クラウドに移行できない旧式のシステムがある場合や、データの格納場所を指示する規制またはコンプライアンス要件がある場合などです。
5. ロックウェル・オートメーションは、ビジネスの一部としてクラウド技術を組み込むことに関心を寄せる製造業者をどのように支援できますか?
当社は、設計、運用、保守から成るコネクテッドエンタープライズの生産システムのライフサイクル全体にわたるクラウドネイティブな戦力のエコシステムを構築することにより、デジタルトランスフォーメーションの過程のどの段階でもお客様をサポートします。
最近行なった当社のオンプレミス型FactoryTalk® Hub™ソフトウェアを補完するPlexとFiix®の買収に加え、社内での一連の重要な開発や技術パートナシップを通してこれを実現します。Microsoft社とのパートナシップは、Azure公開クラウドプラットフォームなどの世界的に認められたクラウドプラットフォームで構築された業界に関連する信頼されているソリューションを提供するために役立ちます。
一部の企業は、一部のアプリケーションにのみクラウド技術を活用するでしょう。大多数は、その時点でビジネスにとって何が意味があるかによって、オンプレミスとクラウドの両方にアプリケーションを持つ体制を維持するでしょう。
クラウドは、ITハードウェアの事前コストを回避し、IT管理を簡略化しながら世界のどこからでもソフトウェアにいつでもアクセスできる機能、セキュリティ体制の強化、常に最新のバージョンレスソフトウェアによる継続的な技術革新など、製造メーカに非常に多くの利点をもたらします。利点があまりに多いため、「クラウドを採用「しない」という余裕がおありなのですか?」とお聞きするほどです。