平田機工株式会社は熊本に拠点を置くOEM機械メーカです。1951年の創業以来、自社開発の各種モジュールを活用することで、今では世界40か国に幅広い顧客を持つに至っています。同社は、自動車および半導体産業において非常に積極的に事業展開しており、設計からエンジニアリング、立上げまでを一貫して行なえることを強みとしています。平田機工の社訓は「人に優しい機械とシステムの提供」です。
2019年: 平田機工の課題
すべて順調と言いたいところですが、平田機工には長年にわたり2つの悩みがありました。プログラムのデバッギングと位置ティーチングです。プログラムの動作確認は機械が完成する前でも可能ですが、デバッギングは機械が完成しプログラムが作動するまで待たなければなりません。その後にティーチングが続きます。ティーチングは通常、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)を使いロボットの各軸のポジションを入力して行ないます。非常に高精度が求められる作業であり、慎重に行なう必要があり、長時間を要します。したがって、平田機工が「実機の完成を待たずにデバッギング作業を進めることができたら」と考えるのはまことに自然なことでした。また、立上げももう1つの課題です。特に海外のプロジェクトの場合、サイトの人員は機械がサイトに到着するまで数週間、場所によっては数か月ただ待たなければなりません。そこで、輸送期間にできることはないか思案がなされました。
そうした中で出会ったのがロックウェル・オートメーションのEmulate3D®でした。それまでも平田機工とロックウェル・オートメーションには、主に北米ユーザ向けのプログラマブルコントローラ(PLC)やサーボ製品などのコンポーネントで取引関係がありました。ロックウェル・オートメーションは、2019年1月にデジタルエンジニアリングの拡張戦略の一環としてEmulate3D社を買収し、そのデジタルツールの営業展開を開始していました。当時、シミュレーションツールによるオフラインティーチングが一般的になりつつありましたが、シミュレーションではプログラムをテストすることができないため、シミュレーションツールによるデバッギングは不可能でした。エミュレーションを採用すると、エンジニアは3Dコンピュータ・エイデッド・デザイン(CAD)の対象物を使った仮想環境でプログラムを走らせることができるため、機械の完成を待たずにプログラムのデバッギングを始めることができます。平田機工は、ロックウェル・オートメーションのテクニカルコンサルタントが行なったデモに感銘を受けました。
トライ・アンド・エラーによる概念実証
ロックウェル・オートメーションのチームが平田機工のエンジニアにEmulate3Dのデモを行なったのは2019年6月でした。機能紹介とデモに感銘を受けながらも、平田機工は技術的検証も必要だと考えました。そして、概念実証のコラボレーションが始まりました。平田機工が技術情報をロックウェル・オートメーションに提示し、ロックウェルはさらによりカスタマイズされたデモを設定しました。ロックウェル・オートメーションのコンサルタントは、特設のデモを用意して平田機工に戻り、さらにデモを行なうための追加の入力を提供しました。数か月のやり取りの後、平田機工のエンジニアはこのツールを信頼するに至り、管理部に予算申請を行いました。当時のことを平田機工第2ビジネスユニット熊本第二事業部の志水氏はこう語ります。「これまでもいくつか同じようなシミュレーションのソリューションを試しましたが、それらは小規模の配備にのみ適したものでした。しかし、Emulate3Dは違いました。弊社の実機3D CADデータを使ってロックウェル・オートメーションにより開発されたデモプログラムを試してみて、私たちはその品質に感銘を受け、さまざまなケースで使用できる大きな可能性を見出しました。」
予算が承認された後、2020年1月に専任エンジニアが任命され、ロックウェル・オートメーションのテクニカルコンサルタントによる徹底したハンズオントレーニングが始まりました。数か月にわたるトレーニングで、専任エンジニア達はそのエミュレーションツールを完全に使いこなせるようになり、いくつかの実際のプロジェクトでも優れた結果を達成しました。この成功により、新たに「デジタルエンジニアリングチーム」が楠口統括部長の下に発足し、新しく4人のエンジニアが配属されました。翌2021年4月、楠口氏管轄部に隣接する第3ビジネスユニットに「3Dデザイン推進チーム」が創設され、エンジニア4名が配属されました。今では、Emulate3Dは導入前に比べてエンジニアリング時間を30%短縮、デバック作業の効率を70%向上させるまでに至りました。
予想外の「副次効果」
Emulate3Dは、仮想現実(VR)機能を統合することができ、PLCプログラムを実行している機械のチェックに加え、仮想環境での詳細な安全検証または危険予測が可能です。またこれにより平田機工は、仮想での試運転を行なうことでエンジニアの派遣や試運転時間を削減することができました。さらに、トラブルシューティングまたは工場出荷時テスト(FAT)を仮想エミュレーティングでの機械操作により行なうことができます。実際、平田機工によると、この世界的パンデミックの中、遠隔FAT/トラブルシューティングの要望がますます増えているとのことです。ビジネスのやり方を、実物/当人から遠隔に移行することは、平田機工だけでなくエンドユーザにとっても大きなメリットとなります。さらに、Emulate3DとVRの組み合わせにより仮想の訓練環境を整えられるため、サイトの作業員は設備の海上輸送中に操作訓練を終えることができます。この仮想訓練は、新人のトレーニングにも効果的です。
次のステップ
製造業およびエンジニアリング業界でのエミュレーションツールのメリットはこれまでも取り上げられてきましたが、平田機工ではこのツールのさらに幅広い使い道も検討しています。例えば、同社はOEMメーカとして、エミュレーションとVRの組み合わせにより、展示会でブースを構えることなく機械のデモを行なうことができます。営業チームはタブレットを使い遠隔操作でお客様にデモを見せることもできるため、セールスサイクルがより効率的になります。志水氏のマネージャである楠口氏はこう語ります。「弊社は品質とリードタイムの面で付加価値を提供してきました。そして今後は、Emulate3Dのような革新的なデジタルツールにより、更なる価値を付け加えて行くことができるでしょう。」 平田機工の挑戦はさらに続きます。